ある晴れた春の日のこと、やっと一人暮らしにも慣れ始めた僕に、一つの小包が届いた。
中身は、いつかの春の日に、不景気な面をさらしてベンチで暢気に昼寝している僕の姿を描いたラフスケッチだった。自分の姿を描いた絵なんて、とも思ったが、結局額縁まで買ってきて、部屋のど真ん中に飾ってしまうことになった。
『私は、なんとか元気でやっています』
添えられた手紙は額縁の裏にしまってある。色気も可愛げもない、そっけない便箋にたった二言だけの不器用なメッセージ。
彼女に負けず劣らず不器用で作文が苦手な僕は、迷った挙句に大学内で撮ったお気に入りの写真を一枚、短いメッセージを添えて返信した。いつか、彼女が描いた姉妹の笑顔に負けないように、とびっきりの笑顔のやつを。
『だからあなたも、いつまでも元気でいられますように』
さよならは言わなかった。
不器用なりの一歩を踏み出した僕らにはそんな言葉は似合わない。
だから、僕が書いたのは、短く、こんな言葉。
『元気です。いつかどこかで、また会いましょう』
僕が死ぬ間際に思い出すのはきっと彼女のことなのだろうと、僕には不思議な確信がある。