まだもうちょっとだけ続いちゃったゾイ。
《前回までのあらすじ》
来ヶ谷とクド、真人と謙吾がフュージョンし、来リャフカと謙人という戦士が生まれた。
強敵(変態)と戦うため、理樹もドルジとのフュージョンを果たし、スーパーねこみみメイド人ドル枝となった。
しかしそれは、新たな強敵(変態)との戦いを意味していた!!
次々と襲いかかる強敵(変態)に、新たな力を得たドル枝は勝てるのか!?
どうなる、ドル枝ぇー!!
DRAGON BUSTERS! Z2
危険なふたり! 窓際ではねむれない編 安全 空間
最近のきょーすけはきしょい。くちゃくちゃきしょい。いやあれはもーきしょいというレベルじゃないな。気色が悪い。
理樹――いまはドル枝、だったな。ドル枝にたいするセクハラっぷりがひどい。
ドル枝の制服をこっそりメイド服にしたり。
ドル枝にねこ用のくびわをプレゼントしたり。
ドル枝のぱんつを女物にしたり。
いやドル枝もドル枝だ。制服のすりかえにきづかないでメイド服をふつうに着てくるとか。ばかかと。あほかと。……にあってたけど。
ていうかなんで誰も、それを言わなかったのか。せんせーですら注意しなかった。
ドル枝がそのことにきがついたのは、けっきょく野球のれんしゅーが始まってからだった。にぶちんにもほどがある。いや、みおは「ドジっ娘」って言ってたな。
『それじゃ、ボクは着替えてくるから……ってぬきゅ!? メイド服!?』
自分のかっこがメイド服だときづいたドル枝の耳が、ぴんとなってすぐにへにゃっとなったのが、かあいかった。
だからそんなドル枝ののどを、ついごろごろしてしまったのはしょーがないことだ。うん、あたしはわるくない。
『やめてよー』とか言いながら、しっぽは上下にゆっくりゆれていた。あきらかにごきげんだった。へんたいだな。そうだへんたいだ、きょーすけの話をしていたんだったな。
「きょーすけのへんたいをどうにかしたい。けるか? けたぐるか? しゃいにんぐうぃざーどか?」
「う、うーん……でも、男の子はみんな変態さんだ、って言うし……」
「おとこはみんなばかばっか、とも言うしな。まったく、おとこってやつはどうしてばかでへんたいなんだ」
「あ、あはは……」
となりのこまりちゃんに話しかける。こまりちゃんは困ったように笑う。なぜだ。
天気はぽかぽか。ぜっこーの買い物日和。今日はモンペチの新作、『男のイカスミ味』の発売日だ。……なんてこった、こんなところにもおとこが。
「ばかでへんたいなおとこは、ほろびればいい」
「んーでも、男の子がみんな馬鹿で変態と言うわけでは……ほえ?」
きぃっ、と。目の前に車がとまった。くろい車。ドアがスライドする。まっくろなおとこが三人でてくる。あたしの体をつかんだ。おもいっきりけとばした。
「なにすんじゃ、ぼけー!!」
それでも近づいてくるおとこたちに、あたしは容赦なくけりをたたきこんでいく。
そのとき、悲鳴がきこえた。あたしがよく知ってる、あたしがだいすきな声で。
「い、いやぁ! はなして!!」
「こまりちゃん! って、うわぁっ!?」
こまりちゃんを見たとたん、うしろから抱きつかれた。身動きがとれない。ばたばたと両手両足をふりまわす。
「はなせ、こまりちゃんをはなせ!」
必死で抵抗するけど、にげられない。こまりちゃんもにげられない。
さっきのくろい車に、こまりちゃんといっしょに放りこまれる。車が、発進した。
せまい車内。たくさんのおとこ。まっくら。のびてくる手、手、手。いやだ、こわい。「いや!」こまりちゃんの声。こまりちゃん、こまりちゃん! たすけなきゃ、こわい、たすける、たすけて! こまりちゃんだけでも!
口がふさがれる。息ができない。あばれる。おさえつけられる。くるしい。空気をすいこむ。鼻の奥がツンとする。目のはしから、くろいもやがひろがっていく。ちからがはいらない。たすけて、たすけ……。
まどのそと。スモークごしのふうけいが、やけにうすっぺらくかんじた。
「――ちゃ、り――!」
体がおもい。ふわふわと浮いているような、だけど閉じこめられているような、ふしぎな気分。
そうだ、あれだ。水のなかにしずんでいるみたい。あ、ことしの夏は泳ぎにいきたい。ばしゃばしゃ。
「目――お願――!」
むー? 声がきこえる? おかしいな、水のなかなのに。あれか、ついにあたしはテレパシーをつかえるようになったのか。よくきこえない。だれだ?
「ぐすっ、――りんちゃん……!」
きこえた、はっきりきこえた、あたしのだいすきな声、こまりちゃん!
泣いている。だれだ、こまりちゃんを泣かしたやつは。きょーすけか。よし、どろっぷきっくだな。
「きょーぅけ……ぶっ殺!」
「りんちゃん!? よかった、りんちゃん、りんちゃん……」
目を開けたと同時に、こまりちゃんが胸にとびこんでくる。そのまま、「よかった、よかった」をくりかえす。
こういうとき、どうしたらいいんだろう。そう言えば、かなたがはるかに抱きつくとき、よく頭をなでていたな。あたしもまねしてみよう。
手をのばす。
「……?」
両手首がぎゅー、ってする。しばられていた。動かしづらかったけど、なんとかこまりちゃんの頭をなでる。
「どーして泣いているんだ?」
「ぐすっ、だって、起きたらりんちゃんが、倒れてて、呼んでも、返事して、くれなかったから……!」
なんてこった。こまりちゃんを泣かしたのは、きょーすけじゃなくてあたしらしい。
「こまりちゃん、じぶんにどろっぷきっくするには、どーすればいい?」
「え、えーと……ぐすっ、どうすればいいのかなぁ? って急になんの話!?」
「こまりちゃんを泣かしたやつをこらしめる」
「ほわぁっ!? わ、私泣いてない! 泣いてないからこらしめなくていいよ〜!」
ぐしぐしぐし、と顔についたなみだをふきとる。そして、「えへへ」と笑った。ほっぺたが熱くなる。
そっぽをむいたあたしの目に、ばかでっかい箱が見えた。体育館ぐらいのおおきさの部屋に、いくつもかさなって置いてある。
「どこかの倉庫、かなぁ?」
「どーしてこんなところに……?」
「へっへっへっ、うまくいきやしたねアニキ」
あたしたちとは違う、太く低い声がきこえた。
声は、あたしたちよりうえのほうの部屋――体育館でいう二階の放送室のあたり――からきこえてきた。
こまりちゃんと顔を見あわせて口を閉じる。
「だろ? 俺の言うとおりにすりゃ間違いねぇんだよ」
「あそこの学校、この辺じゃ一番の進学校っすからね」
「家は相当なブルジョワ(笑)でしょうね。ちょろっと誘拐して身代金をがっぽり要求すりゃあ……」
「一生遊んで暮らせるってもんだ」
【わっはっはっはっはっ!】
誘拐された……? どうしよう……こわい、こわいよきょーすけ……。
「あいつら、そろそろ目ぇ覚ましたんじゃねえか? サブ、おまえ様子見て来い」
「なんで俺が……へぇへぇわかったっすよ、見てくるっすよ」
がちゃん、と音を立ててドアが開く。見おろしてくるスキンヘッドのおとこと目があった。
ひ、とのどが鳴る。
「アニキ、ワキさん。ガキどもが目ぇ覚ましてるっすよ」
部屋からさらに二人のおとこ――パンチパーマと、リーゼント――がでてきて、口々にはやしたてながら、錆びついた階段をおりてくる。
「り、りんちゃぁん……」
いまにも泣きそうなこまりちゃんの顔。
――そうだ、あたしがしっかりしなくちゃ。
ふるえるひざを叩いて、気合を入れる。
「だいじょーぶだ。あたしが、ついてる」
こまりちゃんの目にたまった涙をふいて、安心させるように笑いかけた。一瞬びっくりしたこまりちゃんだったけど、すぐに笑顔に戻ってくれた。胸の奥が熱くなる。勇気がわいてくる。
あたりをすばやく見渡す。階段付近の壁。おおきいシャッター。その横にドア。……多分、あそこから外にでられると思う。
あたしは小声でこまりちゃんに話しかける。
「(あたしがあいずしたら、あそこのドアからそとにでるんだ)」
「(でも、そうしたらりんちゃんが……)」
「(だいじょーぶだ。……そとにでたら、理樹か、くるがやか、きょーすけにれんらくしてくれ。あいつらなら、なんとかしてくれる)」
「(理樹くんたちに……う、うん! わかったよ)」
おとこたちが近づいてくる。一歩、二歩……三歩!
「ぅゃあ!!」
勢いよく立ちあがって、一番近いスキンヘッドにハイキック!
「うお!?」
両手でガードされる。すぐさま蹴り足を引いて、股間めがけて前蹴りを放つ!
肉を打つ音。よろける体。後ろのパンチパーマをまきこんで倒れる。次!
呆然と突っ立ているリーゼントのほうへ走る。走った勢いのままスライディング。リーゼントは横に飛びのく。意外に早い。体を返し、左足を膝裏に、右足を足首にそれぞれあてがい――挟みこむように両足を払う!! うまく……いけ!!
リーゼントはあたしに覆いかぶさるように倒れてくる。
「みっしょんすたーと!!」
リーゼントに押しつぶされながらも声を張りあげる。革靴がコンクリートを叩く音が、出口へ向かっていった。
リーゼントのしたから抜けだし、出口を背にして立つ。パンチパーマが立ちあがり、続いてリーゼントが。スキンヘッドは動かない。
「このガキ……!」
「下手に出てりゃつけあがりやがって!」
おいおい、お前らいつ下手にでた。て言うか会話すらしてないぞ。というツッコミはとりあえず置いといて。
あたしはじりじりと後退する。振り向いて全力で逃げだしたくなるが、それをやったら、先に逃げたこまりちゃんまで捕まってしまうかもしれない。着かず離れず、この場を硬直させる。つまりは時間稼ぎ。おとこたちもそれをわかっているのか、焦った顔で間合いを詰めてきて――その顔が笑みに変わる……?
「うあ!?」
背中に固い衝撃。たまらず倒れこむ。そのうえからさらにやらかい衝撃。
「りんちゃん……ごめんね……」
「こまりちゃん?」
うえに乗っていたのは、逃げたはずのこまりちゃんだった。
「へっへっへっ。ハク、よくやった」
「……別に。買出しから戻ってきただけ」
後ろから、おとこの声。振り返ると、ビニール袋を提げたオールバック。そんな……まだ仲間がいたのか……。
「さて、と」
「よくもコケにしてくれやがったな」
「こ、これは、オシオキが、必要、っすね」
ギラギラとした目で、こちらに近づいてくるおとこたち。
かちり。小さな音。かちりかちりかちかちかちかち……。連続して聞こえる、なんだこれは、ああ、あたしの歯が鳴ってるのか。
伸びてくる手、たくさんの、おとこたち、逃げる、つまかる、倒されて、のしかかられて、いやだ、いやだ、いやだいやだいやだこわいこわいこわいよだれかこわいいやだ、
理樹。真人。謙吾。きょーすけ、きょーすけ、きょーすけぇ………………………………たすけて、
「きょーすけぇぇぇぇぇぇ!」
『――そ、そこまでだ!!!!』
【!?】
もうダメだと思ったそのとき、突然の声が乱入してきた。まわりを見渡すおとこたち。
「なんだ、誰だ!」
「どこにいやがる!」
『ここにいるぞ!』
「!? あ、アニキ上っす!」
スキンヘッドの声に、はじかれたようにうえを見る。薄汚れた窓。その向こうの夜色の空。――その、手前。
「なんだありゃ?」
「鳥か?」
「猫っすか?」
「……人だな」
そう。本来人がいないはずのそこに、いまたしかに立っていた。
そしてその人影は勢いをつけて体をそらし!!
『ぬぉっ』
ガコッ。がたがた、ゴトン。
はめ殺しの窓をていねいに外して、なかに入ってきた。
『う……意外に高い……けど。え、えーい!!』
そして、そのまま空中に身を投げだした! 息をのむ。こまりちゃんが目をそらす。
だけど、地面に叩きつけられることはなく。振り子のようにおおきくゆれ、馬鹿でかい箱の側面を両足で蹴って、あろうことかそのまま空中にとどまった。
あたしはおどろきのあまり声をあげる。
「ドル枝、なんであんなかっこうしてるんだ?」
一気に気が抜けた。
そこにいたのはドル枝……だったんだが。かっこうがなんて言うかなんて言うかだった。
ねこみみ頭にはハートの飾りリボン。顔にはメガネ。手首にはリストバンド。ここまではいい。
なんでおまえ……スクール水着なんだ。そしてなんでスクール水着を着ているのにマントとニーソックスをつけてるんだ。くつなんか真っ赤なハイヒールだし。あー、左の太ももにガンベルトが巻いてある。ふらふらと尻尾がゆれていた。
て言うかよく見たら、全部あたしたちのじゃないか。リボンはこまりちゃんのだし、メガネはみおとみどりのだし、リストバンドはささみの、マントはクドでニーソックスははるか。ガンベルトはさやで、ハイヒールはくるがやか。スクール水着は……2-A なつめ りん……あたしのか!! さらによく見るとうっすら化粧までしている。これは、かなた、か?
『(恭介、突入したよ! 早く下ろして……え?「名乗りが先」? いやいやいや、下ろすのが先でしょ。え?「名乗らないと下ろさない」!? ちょ、ちょっと……! はぁ……わかったよ……)』
ドル枝は耳に手を当ててぶつくさ言って、急に肩を落とした。そしてきっ、と顔をあげると、
『て、天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ! 悪を倒せと轟き叫ぶ! 魔法の力をその身に宿し、少女の夢を守ります!
魔法しょうj――魔法少年 マジカル☆りっきゅん……参、上!!』
どぱぱぱぱーん!!
ドル枝の背後の窓に、花火が映る。えー。
あたしの記憶が確かなら、今朝まできょーすけは「ドル枝の怒りが有頂天に達するとき、新たな力が目覚めてスーパーねこみみメイド人に変身するのだ! いや、してくださーい!!」と金髪縦ロールのカツラとメイド服(露出系)をドル枝にわたそうとしていたんだが。理樹がドン引きして拒否ってたんだが。「ツンデレ萌へー! もっと罵ってくれ! もっと、もっと 愛 を こ め て !!」と鼻血吹いて倒れてたんだが。魔法少女はどこからでてきた。あとあれだ、ステッキがない、ステッキ。
うぃーん、と機械の動く音がして、ドル枝の体がさがっていく。ワイヤーかなにかでクレーンにぶらさがっていたらしい。
がこん。ドル枝の足が地面につく直前、さがるのが止まった。
ドル枝はなんとか地面に足をつけようとばたばたと両足を動かした。
『(きょ、恭介! なんか急に止まっちゃったんだけど? え?「これ以上下がらない、そっちでワイヤーを外してくれ」? うん、わかった)』
今度は腰のあたりをいじくりまわした。小さな金属音の後に、地面におり――
『ぬきゅっ!?』
立とうとして尻餅をついた。ハイヒールに慣れてないのか。どんだけだ。ほら、まわりのおとこたちもあきれてるぞ。……あれ、顔が真っ赤だ。なんかもじもじというか、もぞもぞしだしたし。なにこいつらこわい。
『えっと……そ、そこまでだ誘拐犯! 鈴と小毬さんを放せ!』
「こ、こいつらの知り合いか……?」
『はい。どうも、ドル枝と言います』
「あーこりゃごていねいに。あっしはサブっす」
「ワキだ。よろしくしてやるよ」
「……ハク」
「ってなんでてめえら挨拶しあってんだよ!!」
リーゼントが他のおとこの頭をたたく。
「いやでもアニキ」
「挨拶されたら挨拶し返すのが礼儀っすよ」
「……常識」
「そんなことどうでもいいんだよ!! いまはコイツがガキどもの知り合いで! 助けに来た? のをどうにかするべきだろうがよ!!!」
おー。ナイスツッコミだなリーゼント。理樹にはおよばんが。
リーゼントのツッコミを受けて、おとこたちが我に返ったように身構える。
「アブねえアブねえ、危うくあのネコミミにだまされるところだったぜ」
「そうっすね、あのメガネはハンパないっす」
「……鎖骨」
「スク水ニーソのことはどうでもいいから早く捕まえろぉぉぉお!!!!」
「了解っす! 捕まえるっすから身体的接触は仕方ないっすよねぇぇぇぇ!!??」
スキンヘッドが雄叫びをあげてドル枝に突進した。
「え、あ、ちょ、てめえサブ! ずりぃぞ! 俺も行く!!」
「……抜け駆け」
そして、パンチパーマとオールバックがそのあとに続いて突進する。
「ドル枝ちゃん、逃げてー!!」
『大丈夫、すぐ助けるから待ってて』
こまりちゃんの悲鳴に、落ち着いて答えるドル枝。
……ちょ、ちょっとかっこいいかも。
ドル枝はマントのなか、背中側に手をまわす。
『マジカル☆――』
「なんだ、まほうてきななにかがでてくるのか?」
『――金属バットォ!!』
がぃいん。
目の前に迫ってきていたスキンヘッドをフルスイング。どうみても物理兵器です、くちゃくちゃありがとうございました。
『マジカル☆金属バット!』「ぎゃー!」『マジカル☆金属バット!』「……っ」「おまえら!? クソ、よくも子分を、」『マジカル☆金属バット!』「ぐはっ!」『マジカル☆大外刈り!』「へぶしっ」『マジカル☆ハイヒール!』「ああ、ひぃ、ふぉおぉん♪」『マジカル☆実はボク、男なんです』【な、なんだってー!? ぐはぁ!!】
こうして悪は滅んだ。
『大丈夫? 鈴、小毬さん』
「ド、ドル枝ちゃーん!」
おとこたちをしばったあと、ドル枝はあたしたちのなわを解きながら笑いかけた。こまりちゃんがそんなドル枝にとびついた。
『怖かった……よね。ごめんね、遅くなっちゃって』
「謝らなくってもいいよ。ちゃんと助けに来てくれたし……それに、少しだけ怖かったけど、鈴ちゃんがいてくれたから」
『そっか。鈴、よく頑張ったね』
「う、うみゅ……」
ドル枝の手が、あたしの頭をなでる。その手に引き寄せられて、あたしはドル枝の胸に顔を押しつけた。
「――ミッションコンプリート!!」
『ぬきゅっ!?』
「ほわぁっ!?」
「うにゃっ!?」
突然あがった歓声と拍手に、三人そろって飛びあがる。振り返るとそこには笑顔のきょーすけもとい変態が立っていた。
「ったく、おまえがあいつらの目をひきつけてる間に、鈴たちを逃がす手はずだったのに。ひとりで解決しやがって!!」
『恭介……』
「結果的にうまくいったが、もうあんな無茶するなよ?」
『うん……ごめん』
「――とまあここまでが、リトルバスターズのリーダーとしての言葉だ」
変態は急に真顔になったかと思うと、
「棗鈴の兄、棗恭介としてお礼を言わせてくれ。――ありがとう。妹を、妹と妹の友人を助けてくれて、ありがとう」
そう言って変態は……きょーすけは頭を深く深くさげた。
ドル枝はきょーすけの肩をつかんで、頭をあげさせた。
『顔を上げてよ恭介。ボクは、助けたいと思ったから助けたんだ。ふたりとも、ボクにとって大事な仲間だから』
「ドル枝……いや、理樹」
きょーすけはドル枝の頭をなでる。
「強く、なったな」
きょーすけは笑う。つられるようにドル枝も笑う。そしてそんな空気をぶち壊してビデオカメラ片手にあらわれる、ばかがふたりもといひとり。
「おーい、恭介ー! バッテリーが切れちまったー!」「撮るのはここまででいいか?」
……………………。
『撮る?』
「ん? おおドル枝、なかなかカッコよかったぜ!」「今日はマジカル☆りっきゅんの撮影をすると聞いたのだが?」
「きょーすけ?」
「いや、そういうことにしておいたんだ。あまり大事にして、みんなに心配かけたくなかったからな」
そーかそーか、あたしの目を見て物を言え。
「まさか、あの誘拐犯さんたちも、きょーすけさんが……?」
「違うぞ、ぜんぜん違うぞ小毬! 誘拐はたまたまだ、俺は発信機を利用して察知しただけだ!!」
……………………。
『発信機?』
「あ゛」
あからさまにきょーすけの動きがとまる。ほっぺたのあれは冷や汗か。
そーいえばこのあいだ、きょーすけにストラップをプレゼントされたな。あとですてておこう。
『……あとさ恭介、この格好って、誘拐犯たちの目を引くためだよね?』
「おおおおおうももももちろんだとも」
「恭介の趣味じゃなかったか?」「恭介の趣味だと聞いたんだが?」
『……そう言えば、ボクの突入の後すぐに恭介たちが来る手はずだったよね? ちょっと遅かったよね?』
「そそそっそそれは、ちょっと準備が……」
「ああ、あの『お兄ちゃん仮面』とかいうやつの着替えだな」「ドル枝がピンチになってから突入すると言ってたが?」
「おまえら、あの、ちょっと、もう黙れよこのばーか! ばーか!!」
……………………。
『……話をまとめると、誘拐は偶然。なぜか持たせてた発信機でそれを察知。助けるためと騙してボクをこんな格好にした。しかも撮影までしてた。しかもピンチになったらおいしいとこ取りするつもりだった』
「いやあのすまん、俺の話を聞いてくれ!」
「……きょーすけ」
「はいなんでしょう鈴様!」
「しん・らいじんぐにゃっとぼーると、しん・らいじんぐにゃっとぼーると、しん・らいじんぐにゃっとぼーる。どれがいいと思う? ドル枝」
『そうだね、ここはやっぱり真・ラインジングニャットボールじゃないかな』
「わーい処刑方法が選べ……ねぇ!? ドル枝が決めるのかよ!? しかもどれも同じだし大惨事間違いなしじゃねぇか!」
あたしはたまたま落ちていたビニール袋のなかから、たまたま入っていた鉄アレイを取りだした。
「あんしんしろ、みねうちだ」
「投げるのに峰とか関係……ぎにゃーーー!」
こうして悪(変態)は滅んだ。
『……鈴たちを助けるためにこんなかっこうしたのに……恭介の趣味だったなんて……』
ドル枝が激しく落ちこんでいた。
なぐさめないと。
頭をぽむぽむとなでる。
「だいじょーぶだ。くちゃくちゃかぁいい」
『うわー!!!!』
にげられた。
《次回予告》
オッス、オラドル枝!
いかんせん死にたい。