「理樹く〜ん、私と子作りしましょ〜」
「小毬さんが壊れたー!!!!」



   恋と魔法と色欲モノ。       安全 空間



 ――あの、奇跡のような修学旅行から、二ヶ月が経っていた。
 いやだからどうしたと言われても、今日この時にはまったく関係ないんだけどね。
 しょわしょわしょわとセミが鳴く、暑い午後 at 日曜日。宿題を終え、さて本でも読もうか寝てしまおうかと考えていたときのことだった。
 ノックもなくドアが開いたので、ああ真人が帰ってきたのか部屋の体感温度が三度は上がるな、とかぼんやりしていた。
 駄菓子菓子、違っただがしかし、体感温度はいつまで待っても上がることはなかった。どうしたんだろう? まさか真人の筋肉が家出でもしてしまったのだろうか? すわ一大事と振り返ってみると、なんのことはない。そこに立っていたのは真人ではなくて制服姿の小毬さんだった。
 なにか用かと口を開きかけ――それよりも先に、冒頭の台詞である。壊れた、なんて失礼なことを叫んでも仕方ないと思う。

「ふぇ? 壊れる? 壊れるほど愛してくれるんだね!」
「いやいやいやいやいや、誰もそんなこと言ってないから!」
「イッて!? 私との行為を想像するだけで……?」

 ほっぺたに手をあてて、いやんいやんと身悶える小毬さん(壊)。小毬さんが体を揺らすたびに、けしからん物がふたつ、左右上下に揺れていた。

「理樹くんは変態さんですね〜。(カチャカチャ)」
「まずはベルトを離して。話しはそれからだ」
「でも、このままだとカピカピに……」
「ならないから! 暴発なんてしてないから!」
「そうなんだ……」

 どうしてそう残念そうな顔をするのだろうか。

「そうだ理樹くん、お菓子食べる?」
「え……じゃあもらおうかな」
「では、ジャンボマシュマロでもどうぞ〜先っぽにさくらんぼもついてるよ〜」
「やっぱりいらない! いらないから服脱がないで!」
「残念……でも、私はお菓子食べるよ〜」
「僕のチャック下ろさないで! そこにお菓子はないから!!」
「ああ、私のチョコバット〜」
「そのなんでもかんでもピンク色に変換する、目と耳と口をどうにかしてよ!」
「……ご、ごめんなさい〜」
「あれ、急にまともに――」
「口でするのはいいけど、目と耳はちょっと怖いかな……」
「――なってない! なんの話しをしてるのさ!?」
「理樹くんは足のほうがお好み?」
「僕の話を聞いてよ!」
「それじゃあ理樹くんは、サッカーと野球どっちが好き?」
「それじゃあのつなげかたが意味わからないよ……」
「いいからいいから〜」
「えっと、野球?」
「ようしっ。目指せ、九人兄弟!」
「『ようしっ』じゃないぃぃぃぃいい!!」

 議論を1ミクロンも挟む余地なく、小毬さんが変だ。いや変態だ。来ヶ谷さんと同じぐらいだ。いや直接的だから来ヶ谷さんよりレベルが高い。
 なにか変なものでも食べた……? 昨日はワッフルとポテチとモンブランとドーナツと納豆巻きとカステラと肉まんとくるみゆべしとたい焼きとチョコとバニラアイスを食べていた。種類は違えど、いつもと同じ食事内容だったはず。
 そうこうしているうちに、小毬さんはリボンを手にとってするりとほどい、てててててっ!?

「ちょっ、小毬さんなにやってるのさ!?」
「べ、別に理樹くんのためじゃないんだからね! (ストーン)」
「無駄にツンデレ発動しなくていいから! っていきなりスカートが落ちた!? とりあえずはいて、スカートはいて!」
「そっか、男の子って自分で脱がしたほうがこーふんするんだっけ」
「あーもーそういうことにしておくから、とにかくスカート!」
「おっけ〜ですよ〜。(プチプチ)」
「OKって言ってるよね!? なんでYシャツのボタン外してるのさ!?」

 じょじょにあらわになっていく肌色に、理性を置き去りにして魅入ってしまう。
 ノ……ノーブラ……だと……?
 ボタンを外し終え、ふとした拍子に桃源郷が見えてしまう――そんなきわどい状況をつくり、小毬さんが宣言する。

「では、スカートをはきま〜す」
「いま屈んじゃらめぇぇぇ! 見えちゃうのぉぉぉおお!!」
「問題です! 屈まないでスカートをはくにはどうしたらいいでしょう? 321ぶー時間切れ。正解は理樹くんがはかせてくれればいいじゃない! でした〜」
「いや、それはさすがに……」
「では、スカートをはきま〜す」
「いま屈んじゃらめぇぇぇ! 見えちゃうのぉぉぉおお!!」
「問題です!」
「もういいよ! わかったよ!」

 いつまで経っても会話が進まない。無限ループって怖くね?
 だからしかたなく承諾する。ほ、本当にしかたなくなんだからねっ。
 とにかく、小毬さんの格好をどうにかしないと……こんな場面を誰かに見られたら……考えるだけで怖くなる。
 小毬さんの肌を見ないようにしながら、床に落ちたスカートをつまみあげる。
 そしてなるべく触れないように、慎重に持ち上げていく。

「と、ここでおねーさん参上!」
「うわぁ!?」
「あ、ゆいちゃ〜ん」
「一体どこから出てきてるの!?」
「もちろん少年のベッドの中からだ」
「どこがどう『もちろん』なのさ! 非常識にもほどがあるよ!」
「なにを言う。私は最初から気配を殺して少年のベッドに潜んでいただけだよ?」
「常識ある人は気配を殺してベッドに潜まないよ!」
「それよりも少年。なかなかに愉快なことになっているな。おねーさんも混ぜろ」
「そ、そうだ来ヶ谷さん! 小毬さんが変なんだ。なにか知らない?」

 来ヶ谷さんならなにか知っているかもしれない。
 その期待に応えるように、大きくうなずいてくれた。

「いまコマリマックスには強烈な暗示がかかっている」
「暗示?」
「『ジャンケンに負けた神北小毬が直枝理樹にエッチなイタズラをしたくなる』というおまじない……いや魔法がかかっている」
「なにそのピンポイント狙撃。誰が得するのさ」
「まあ私がそのおまじな……魔法をかけたんだがな」
「お前かー!!!! (ガクガクガク)」
「はっはっはっ。そんなに揺らされてもなにも出んよ? (ぷるんぷるんぷるん)」
「理樹くん! そんなにおっぱいを揺らしたいなら私のを!」
「おっぱいのためにやってるんじゃないんだよ! って言うかいまさりげなく来ヶ谷さんとおっぱいをイコールで結んだよね!?」
「私のおっぱいと私のおしり、どっちが好きなの!!??」
「来ヶ谷さんこの子元に戻してー!!!!」

 半分泣きながら訴える。
 すると意外にもあっさり承諾してくれた。もうちょっとごねるかと思ったのに。

「もう十分堪能させてもらったからね」
「人の心を読まないで下さい」
「さて、おま……魔法を解除する方法だが、」
「もう無理やり魔法に絡めようとしなくていいから」
「いま、小毬君は愛に飢えている状態だ。すなわち、その心を満たす言葉を言えばいい」
「……つまり、愛の言葉?」
「ああそうだ。『オッパイイッパイボクゲンキ!』と」
「愛どこ行ったんだよ!!」
「なにを言う。おっぱいは母性愛の象徴だ」
「うー……わかった言うよ……『オッパイイッパイボクゲンキ!』どうだ!」
「はい、理樹くんの大好きなおっぱいですよ〜」
「元に戻ってないよー!?」
「ああ、コマリマックスが言わないと意味ないからな」
「そういうことは先に言ってよ! 小毬さん、僕のあとに続いて言って! 『オッパイイッパイボクゲンキ!』」
「『おっぱい〜いっぱい〜ぼく、げんき〜』」
「……どう?」
「……………………」
「…………」
「……………………ほ、」
「ほ?」
「ほ……ほ……ほ……、ほわぁっ!!?? ほわぁ……ほわ……ほわぁぁぁ!?」
「来ヶ谷さん!? 小毬さんがほわぁしか言わなくなったよ!?」
「うむ。正気に戻って恥ずかしくなったんだろうな」
「ほわぁ……」
「コマリマックス曰く、『ああ、私のチョコバット〜』」
「ほわぁぁぁぁ!! もうお婿にいけないぃぃぃいいぃ!!!!」

 猛スピードで部屋を飛び出す小毬さん(正)。嬉々として追いかける来ヶ谷さん。ひとり取り残される僕。

「さて、寝るか」

 見なかったことにしよう。見られなかったことにしよう。お〜け〜? うん、おーけー。
 ベッドにダイブする。
 がちゃり。ドアが開く。真人かな?
 ぽすん。腰になにかが乗っかってきた。目を開ける。鈴がまたがっていた。ぱんつ見えてるよ、と口を開くより先に、鈴が言った。

「理樹、あたしと子作りしろ」
「鈴が壊れたー!!!!」

 第2R、ふぁいっ!

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