寮は静かだった。
誰もいないかと思うほどに。
けれども今、僕の頭の先にはちゃんと人はいるのだけど。
……この静けさはなにか、騒がしいことが起こりそうな前触れな気がする。
区切りのいいところで頭を上げ、大きく伸びをする。
少しだけ休もうと思ったところで目を前に向けて真人の様子を見てみた――。
「おう、理樹、大人しく写して貰ってるぜ」
こうなるとはほんのちょっとだけ思っていたんだ。
僕がいつものように宿題をしようと言って、真人はそれをしぶしぶ引き受けるという形。
ここまでは大して変わらない展開。
だけど毎回毎回やるときには「わからねぇ、わかんねぇ」ばかりで、僕としても集中が出来なくなって来てしまう。
BGMとして使うにしても不気味すぎてやる気が削がれてくる。
だから今回は大人しく宿題をしてね、と忠告したけど……。
「なんで写してるの?」
「なんでって言われてもな………」
なぜかそれっきり真人は黙りこくってしまった。
………。
なぜか不思議な顔で僕の顔を凝視する真人。
なぜか―――。
………。
疑問点を挙げたらキリがない。
いやまあ、なんというか。
「真人、なんで黙ってるの……どうみても不気味だよ」
「以心伝心だ」
いしのいし
「いやいやいや、それで伝わったらすごいからね」
そのときだった。
静かだった寮が一瞬にしてひとつだけの勢いある足音に壊されたのは。
何事か、と思ったころにはもう既に僕たちの部屋のドアが開かれるところだった。
「理樹、真人、大事なことを話すから集まれ。これから全員呼んでくる」
その正体は恭介だった。
またなにか始まらなければいいのだけど……。
◇
「と言うわけでだ。お前たちに集まってもらったのは他でもない……しっかりとやってもらいたいためだ」
またなにかの漫画の影響なんだろうな。
そう思うしかなかった。
ちなみに、ここに集まる前に真人はなにかおいしい物が食べられると思ったいたみたいだけど、その期待は見事に裏切られた結果になっていた。
そんな真人の様子を見てみると、哀愁が漂っていた。
しかし、そんな真人をよそに今の恭介からは言い知れないプレッシャーを感じる。
「なんかわざとらしくてへんだぞ、きょーすけ」
「え、えーと、アーチョフィショーナルっぽいですか!」
「クーちゃん、それを言うならアーティフィシャルじゃないかな?」
「あっ、間違えてしまいましたっ」
「やはりクドリャフカ君は相変わらず愛愛しい……」
「わふーー!?私には帰りを待ってる大事な人がー!?」
「変だったか?んまぁ、いいや」
「ところでなにをやって貰いたいのでしょうか」
「そうだな、人数を集めてほしい」
「なんの人数集めだ?」
「野球だ」
「なんでまた急に」
「これからこの10人でいい勝負をしていくのには物足りないと思ったからだ」
やっぱり漫画の影響だろうか……。人数集め。やはり嫌な予感しかしなかった。
また僕が集めることになるのかなぁ……。
感じてる恭介からのプレッシャーがそうでないことを祈ろう。
「あと何人ぐらい必要なんですかネ」
「4人」
「ふむ、そうなると合計14人になるわけだな」
「そうだな、明日から集めてもらうことになるが大丈夫か?
石に齧り付いても集まった4人も含めてこれから14人でいい勝負をしていくための意志を固めていきたいと思う。
以上。解散」
恭介からの説明はそれだけだった。
あっけなく解散と言われてもみんなは呆然としてて解散という言葉が聞こえていないようだった。
恭介だけがさっさと部屋に戻って行ってしまった。
「要約すると――草野球の試合で、これからよりいい試合をするために、あと4人メンバーを集めて欲しい――ということですね」
「要約ありがとう、西園さん」
「きょーすけのことだから漫画の影響だろ」
「それしか考えられないな。でも……あと4人も見つかるのか?」
「難しいところだね」
「私は、まぁ頑張ってみることにしますネ」
葉留佳さんがメンバーを集めるとしたら――
きっと勢いに圧倒されてしまって相手が先に逃げて失敗してしまうのだろう。
そんな姿しか脳裏に浮かばない。ごめん、葉留佳さん。
「私に出来るのでしょうか…心配です……」
「大丈夫だよっ、クーちゃん!何事も、ど根性だよ〜」
「ど、ど根性ですかっ。なるほど、頑張ってみます!」
小毬さんとクドは――ないだろうけど、逆にメンバーに勧誘されたり……。
「私は世にも恐ろしい、怖い仕掛けを用意して引っかかったところで一言だけ、入れ。とだけ言うことにする」
「来ヶ谷さん、それ脅迫だからね」
「む、そうか。」
「オレは筋肉関係をあたってみるぜ」
出たぁ!よくわからない筋肉関係!
「そーか、じゃああたしは猫関係をあたってみる」
えぇ!鈴まで乗らないでよ!
「俺はそうだな――マーーーン!関係をあたるとするか」
謙吾まで……それにマーーーン!関係ってなんなのか。
とても気になるけど触れてはいけない領域なんだろうな。
ああ、どうなるんだこのリトルバスターズ――。
……そうだ、まだ一人希望があった。
「西園さんはどうかな?」
「わたしですか。そうですね、まだ愛書が読み終わってないので」
「え、愛書?」
「そうです、わたしは気に入った本は144回読みなおす癖があるので………いっしっし」
「…西園さん、何か言った?」
「いえ、なにも。すべて冗談です」
「そ、そっか。よかった。144回は冗談だよね」
「では、わたしはパスさせていただきます。石が流れて木の葉が沈んでもそんなキャラにはなりませんので」
「えー」
結局、僕が頑張るしかないようだった……。
はぁ。
ため息がひとつでた。