猫に小判 mas
―バトルランキング―
RANK1:バトルランキング暫定王者 ― 直枝理樹
RANK2:胸にはコーラが詰まってる ― 来ヶ谷唯湖
RANK3:リトルバスターズジャンパーと結婚した ― 宮沢謙吾
RANK4:科学部部隊は全員弟 ― 西園美魚
RANK5:キリンさんが好きだけど実は象さんが好き ― 棗鈴
RANK6:「ここだけの秘密……」と言う役 ― 三枝葉留佳
RANK7:本体はストレルカ ― 能美クドリャフカ
RANK8:クド公を狙っている謎の組織幹部 ― 棗恭介
RANK9:私のお菓子は全部みんなにあげる ― 神北小毬
RANK10:もう筋トレはしません ― 井ノ原真人
「おや、鈴君ではないか」
教室の廊下をさすらっているときに、後ろから声をかけられた。もう既に振り向かなくても誰だかはわかる。くるがやだ。
でも、くるがやの今のランクはあたしの三つも上にいるからバトルは出来ない。
「くるがやか、どーした」
あたしは振り向いて、くるがやに返事をする。
「鈴君とアイテムの交換をしたいと思って声をかけた」
「そういうことなら話がはやいな」
あたしとくるがやは早速持ってる物の交換をする。
―鈴は「芸術に達した変な絵」を手に入れた!
―来ヶ谷は「カップゼリー」を手に入れた!
「こわっ!なんだこれっ、こわっ!こいつは変なやつだ!」
貰ったものを確認してみてあたしはびっくりした。同時に、変だと思ったし、怖いとも思ったし、不思議だと思った。そして、馬鹿だとも思った。
「はっはっはっ、鈴君のお気に入りになったようでおねーさん嬉しいぞ。いいものだろう?ちなみにそれは裏ルートから入手したもので、ものすごく値が張ったものだったな」
こんな絵がくるがやの言ってる通りの価値があるなんて言われても、あたしには信じられない。
「鈴君にもいつか価値が分かる日がくるさ」
「うわっ、なんだこいつ!」
でも、なんだかじっくり見ているとなんだか自然の風を感じる………。
ふと辺りを見渡すとくるがやは既に姿を消していた。さっきまでくるがやが居たところにはカップゼリーのカップだけが残っていた。
いつもとなんの変化も見せないくるがやだった。
「鈴さんなのですっ」
前からとてとてっ、とクドがやってきた。クドのランクは確かあたしの二つ下だったはず。けどバトルを申し込まれるかと思ったがそんなことはなかった。
「うーん…」
「わふ?鈴さん、どうかされましたか?」
「いや、これとにらめっこしてただけだ」
クドはあたしが持ってた絵を覗く。
「わふっ!?すごいの見てしまったのです……」
クドは絵を見て驚いていた。こんなの見たら誰だって驚く。あたしも驚いたから。
「それで、クドはアイテム交換をしたいのか?」
「はいっ」
―鈴は「古銭」を手に入れた!
―クドリャフカは「カップゼリー」を手に入れた!」
あたしはクドから貰ったお金のようなものを眺める。
「クド、これはなんだ?」
「それはですね、日本のとても古いまねーだとおじいさまがおっしゃってました」
「これの価値ってどのくらいなんだ?」
「そうですねぇ…私にもよくは分かりませんがきっとぐれーとなぷらいすだと思うのです」
クドは両手を大きく、高く挙げてこれの価値を示している。うーみゅ…、こんな古ぼけてぼろぼろな物がそんなにするのか………物の価値はよくわからん。
「なるほど……クド、ありがと」
「はい、よかったです。では、また後ほどです。鈴さん」
クドはそう言うとぱたぱたと走り去って行った。
ブルルルル…、ブルルルル…
気を取り直して次はどこでさすらおうかと迷っていたら、携帯に連絡が入った。
『廊下で恭介《8位》とクド《7位》のバトルが勃発』
観戦しにいこう。
―野次馬たちから次々と武器が投げ込まれる!
―クドはボディーシャンプーとを選び取った!
―恭介はデジタルカメラとガムテープを選び取った!
…?なんでふたりとも武器を二つも取ってるんだ……?
「おいきょーすけ、武器二つ選びとってもいいのか?」
「鈴、携帯を見ろ」
『今日から武器を二つまで取ってもいいことにする。一つで十分な奴は別に二つも取らなくていい』
朝、というか今日確認したときにはこんな連絡はなかったはずだ。きょーすけの様子を見てみるとなぜか息遣いが荒い。
バトルスタートの合図がこの空間を包んだ。
◆
―クドの攻撃!
クドはボディーシャンプーで泡立たせている!
―恭介の攻撃!
デジタルカメラでクドの写真を撮っている!
野次馬達も携帯でクドの写真を撮っている!
―クドの攻撃!
クドは泡で足が滑った!
―恭介の攻撃!
恭介はガムテープでクドを勢い良く貼り付けた!
野次馬達はクドの写真を撮っている!
―クドの攻撃!
クドはガムテープで貼り付けられていて身動きが取れない!
―恭介の攻撃!
恭介はデジタルカメラでクドの写真を撮っている!
野次馬達もクドの写真を撮っている!
―クドの攻撃!
クドは必死にもがいてる!
―恭介の……
◆
これはひどい。なんであの馬鹿兄貴はずっと床に転んだ状態の、全身白い泡に包まれ貼り付けられているクドの写真ばっか撮っているんだ。戦ってないじゃないか。しかも野次馬達も馬鹿兄貴と一緒になってクドの写真を撮っているんだ。
「わっ、わふーーー!もうやめてくださいー!ぎぶ、ぎぶですーーっ!」
泡だらけになってしまって貼り付けられてるクドは、目に涙を浮かべている。マントも制服も髪も脚も、泡のせいで濡れてしまってる。
「まだ始まったばかりだ、クド」
◆
―恭介の攻撃!
恭介はガムテープでクドをさらに縛った!
野次馬達はクドの写真を撮っている!
◆
「これは…エロいな……」
くるがやの様子を見ると、くるがやも一緒になって写真を撮っていた。あたしには理解が出来なかった。
「クドが可愛そうなだけじゃないか!身動きがひとつも取れない状態で、なんでこんな……!」
「恭介さんも中々の鬼畜ですね……」
「ク、クーちゃん………」
「やーっぱクド公ってばエロエロなんだネ」
「フッ、フッ!」
「ハッ、ハッ!」
みおは無表情だし、こまりちゃんはどうすればいいか困ってるし、はるかはなぜか納得している。そして馬鹿ふたりは筋トレしている。理樹はいなかった。
あたしはもう意を決した。
「もうやめろ馬鹿兄貴っ!勝負はついてる!」
きょーすけの後頭部にハイキックをおみまいしてやった。
「いてっ!なんだよ、鈴。おまえもこれが欲しいのか?」
この馬鹿兄貴は振り向きながらカメラをあたしに向けて差し出した。あたしの意図を読んではくれなかった。
「ちがうっ!」
「分かった分かった」
これで一安心だ。
「恭介氏、ちょっといいか」
しばらくして、くるがやがきょーすけに話かけていた。クドはこまりちゃんたちに連れていかれてた。馬鹿ふたりは筋トレしてた。
「ん、なんだ?」
その時。くるがやの目が光ったのをあたしは見逃さなかった。
「断罪してやろう」
「は、ちょ、まっ……」
くるがやが脚を振り上げた時には、きょーすけはカメラだけを律儀に残して既にいなくなっていた。
残ったカメラはくるがやが懐にしまいこんでいた。クドの全身が泡まみれのびしょ濡れで、涙が目にたまって縛り付けられて、必死にもがいている写真にどんな価値があるんだ。くるがやはそれをどうするつもりなんだ。
「おい」
くるがやが野次馬達に向けたとても低い声だ。野次馬達はくるがやの方に視線を向けた。これだけで怯えてる奴もいれば平然としてる奴もいた。
「おまえらの愚行は万死に値する」
野次馬達に向かって、くるがやが走り抜けたと思ったら数多くの携帯がその場に残った。野次馬達の姿は既に消えていた。
残った携帯はくるがやが回収していた。なにをするつもりなのか理解が出来ない。
そして、写真の価値も理解出来なかった。
◇◇◇
……あら、これは…携帯?誰の落し物かしら?携帯を拾い、開いてみると写真のフォルダの画面になっている。
ファイルをひとつ、開いて見るとガムテープで縛られて全身泡に包まれて濡れているクドリャフカの姿が表示された。
だっ、だれよっ!こんなことしてるのは!私にも生で見せなさい!うらや……いえ、酷いっ!
つい声に出てしまってはいないか少し心配。他にもこんな写真がたくさんあるみたいだった。
「こ、この携帯は没収ね、…没収」