二次元       mas



 俺はいつも通り一仕事を終えて家に戻ってきた。だが、でかける時に玄関の鍵を閉めていたはずだけど帰ってきたときには閉まってなかった。
 何か嫌な予感が走り、玄関へ入ると知らない靴が一つ。そして部屋に入るとそこには理樹が座っていた。部屋がなんだか綺麗になっている。
「おかえり、恭介。久しぶりだね」
 靴の人物が理樹だったことに安心はしたが、その理樹からは変なオーラが漂ってるのを感じる。
 しかし、理樹が俺の携帯に連絡しないで来るのは意外だったし、どうやって入ったのかも不明だ。
「おう、そうだな……ところでなんで理樹がここにいるんだ?」
「うん、言いたいことがあってね」
 そこで理樹は咳払いをしてから話始めた。
「恭介、これをみてどう思う?」
 そう言って理樹が取り出したのは……
「すごく……大きいです……」
「そういうのはいいから」
 なんかすごく不機嫌そうだな。
「とにかく。このゲーム、DVD、漫画、本、全部恭介の物?」
 そう言って理樹が俺に見せてきたものは俺が買ったエロゲー、ギャルゲー、アニメDVD、漫画にラノベ。どれを見ても可愛い少女たちが俺に微笑んでくれている。ああ、やっぱり彼女たちは変わらない。
「ああ」
「わかってる? これは全て絵だよ?」
 理樹は俺に見せて来た彼女たちを更に強調させながら言った。
「そうだな。それがどうした?」
「絵をずっと見てて悲しくならないの?」
「あのさあ、これは全て絵と言っているが当たり前だよ。それは絵だよ。誰にでもわかる」
「じゃあなんで絵にうつつを抜かしているの?」
 理樹のこうした問い詰めにも少しだけ慣れたもんだと思っていたが、こうしつこく彼女たちのことを口出しされてちゃかなわない。そして、さっきから俺の中でぐるぐると渦巻いた何かが爆発した。
「それじゃあさ例えば、どこかの雑誌のアイドル写真があったとしても、これはただのインクの集合体なんだ、と言ってるのと同じなんだよ。また人間を指差して肉の塊だと言ってるのと同じなんだよ。アニメも漫画も全て絵だ。でもただの絵だからって好き、という感情を抱くのはだめなのか? 好きになるのは人格としての彼女なんだ。絵だとか現実だとか、そんな構造はどうでもいいんだよ」
 俺はそう言い切った。だが理樹の様子をうかがってみると、俺を見る目が更に冷たくなっているように見えた。
「うん、そっか。分かったよ。もう、僕の知ってる恭介はいないんだね………」
 理樹はそう言い残して彼女たちをテーブルの上に解放し、静かに玄関から外に出て行った。

「ふぅ……」
 それを見送った俺は静かにため息をついた。
 テーブルの上に座った彼女たちを眺めて、そういえば理樹はなぜ俺の家に来たのだろうか、と今更疑問に思った。

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