あたしは苛立っていた。苛立ち紛れに逆手に持ったフォークを目の前のかきに突き立てる。
 ぐさり。
 ……なんかちょっと、すっきりした。




  秋の味覚、柿      みかん星人





 約束をすっぽかされた。二週間も前から約束してたのに。当日になって、一時間遅れるって電話がかかってきた。あたしは内心不満たらたらだったけど了承し、待った。でも結局、あいつは来なかった。しかも日が変わって今日になって尚、連絡は来ない。

「あたしは怒ってんだぞ、分かってるのか」

 何となく、目の前のかきを睨みつけながら言った。けどかきは何も答える事なくそこに鎮座している。
 なんかまたちょっとむかついた。
 先端が鋭く四つに分かれたフォーク。かきの上に突き刺さっているそれを引き抜き、再び振り下ろす。
 ぶすり。
 弾力のある皮と、その内側の幾分柔らかい中身を貫いて、四つの小孔が穿たれる。深々と突き刺さったフォークの柄を握りなおし、そのままぐちゃぐちゃとかき回す。
 ぐちゃぐちゃ。

「ずっと楽しみにしてたんだぞっ」

 それなのに、あいつは……。
 振り下ろす。抜く。振り下ろす。抜く。振り下ろす。抜く。振り下ろす。
 ぐさり、ぐさり、ぐさり、ぐさり。
 あたしがフォークを振り下ろすたび、かきの皮は裂け、繊維が引きちぎれ、みが潰れ、汁が飛び散る。
 ……うーみゅ。なんか、楽しいかもしれん。
 少しだけ気を良くしたあたしは、しばしその行為に没頭することにした。
 ぐさ、ざく、ざしゅ、ばぢゅ、ぐじゅ、ぐしゃ……。



 プルルルルルル。プルルルルルル。
 フォークを振り下ろすたびに響く音がだんだんと水っぽくなり、かきの表面に孔の開いてない部分が見つけにくくなってきた頃、あたしの携帯電話が鳴り出した。
 右手ではかきを刺し続けながら左手で携帯を手繰り寄せ、画面を覗き込む。液晶に表示された発信者の名前は、あいつだった。

「あいつ……」

 深く息を吸い込む。肺にいっぱい空気を吸い込んだところで通話ボタンを押す。あいつの声が何か言っているが構わず、

「なに考えとんじゃ、あほおおぉぉぉぉおっ!!」

 叫んだ。耳きーんしてろ、ばーか。
 そう少し溜飲を下げたところで、多分叫んだ拍子にだろう、刺してたかきがえらいことになっていることに気付いた。
 ……まあいいか、かきだし。
 電話越しのあいつの声が平謝りに謝ってくる。今夜こそはちゃんと行くとか、当たり前のことばかり言ってくるのでまたちょっと腹が立った。

「当たり前じゃ、ぼけーっ! 今度すっぽかしたら刺すからなっ!」

 ぴっ!
 怒鳴りつけて、一方的に電話を切ってやった。

「まったく、あいつはほんとにしょーがないやつだ」

 言いながら、目の前のかつてかきだったものをぽいとごみ箱に投げ捨てた。ぐちゃぐちゃになったそれは、その外見とは対照的に綺麗な放物線を描いてごみ箱の中に落ちて、べちゃりと音を立てた。
 手に付いたかきの汁を舐め取りながら立ち上がり、流しに向かった。手を洗わないと。
 今夜、あいつはどんな顔でやってくるのだろうか。顔見たら文句言ってやる。もしまたすっぽかしたりしたら、本当に刺してやる。

「覚悟しとけよ、ぼけぇ」

 あたしはそう呟いて、今夜の待ち合わせの準備を始めた。

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