Лучше горькая правда, чем сладкая ложь.       おりびい



『2週間に及ぶ宇宙での実験を終え、今乗組員全員が地上へ降り立ちました。今回の実験は今後この地域での水面上昇の問題解決に……』
「……」
「お母さんやっぱり行きたかったかですか」
「いいわよ、クーニャ。私が行かなくても私の願いはちゃんとかなったわ。大事な誰が成功させたかではなく成功したかどうかなのだから」
「でも」
「……そうね、やっぱり行きたかったかもね。だからクーニャお勉強頑張りなさい。真に私の願いをかなえられるのはあなたなのだから」
「はい」

 ……少し寝てたみたいね。今は何時ぐらいだろうか。捕らえられてからのわずかの間に時間の感覚がいい加減になってしまった。時間に対する正しい感覚は宇宙飛行士にとって必要最低限な要素の一つなのに。あと何日で処刑されるのだろうか。水も食料も与えられず暴行を受けながら処刑を待つというのはひどくむなしい。こんなことだったら脱出してから捕らえられるまでに自殺しておけばよかった。
 それにしても人はどんな時でも夢を見ることができるなんて知らなかったな。それともこれは知らない方が良かったことなのだろうか。それにしてもなんて都合のいい夢なのだろうか。実験は成功しクーニャが私の夢を引き継ごうとする。完全に現実とは正反対ね。夢ってどこまでも自分に甘くできるのね……それともああいう世界があったのかしら。私がどこか重要な分岐点で別の選択肢を選んだ場合の世界。SFの世界でもないか。平行世界論、ああ、懐かしい人たちを思い出したわ。残念ね。飛行機事故に巻き込まれたあの人たちと違って私は事故を起こした側の人間。私が行くべきところは地獄だから天国にいるかつての友人や尊敬する人たちに会えないのか。
 ……この期に及んでなお自分自身に嘘をつこうとするなんてどこまで私は卑怯なのだろう。事故を防げず墜落する船から逃げ出し一体どれだけの人が亡くなったのかわからない。でもそれよりも大きな罪が私にはある。あのような事故を起こした者の娘となればクーニャはどれだけ非難されるかはわからない。それでもあの子は必ず宇宙を目指す。私が自分の願いをかなえるためにそうなるよう育てたのだから。事故は他の人が乗ってたとしても起きていたかもしれない。でもあの子を自分に都合のいいように育てたのは否定しようがない私だけの罪。さっきの夢ですらクーニャを自分の願いのための道具として扱っていた。ああいう傲慢さが私の本質なのだろう。
 子どもは親を選べないということはこの世で最も不幸なことの一つなのだろう。ただの夢なのかそれとも平行世界の姿なのかはわからないが、さっきのは私が宇宙へ行くことをあきらめていた場合の今なのかもしれない。大きな夢を持ちながら家族のためにそれを捨てる人はいくらでもいる。いや、家族と幸せな未来を送るそれもまた大きな夢なのだろう。でも私はそれをしなかった。そのうえ母親らしいことは何一つしないのに子供はほしかったからクーニャを産んだ。私とクーニャの間に一体どれだけの思い出があるのだろうか。手料理すら数えるほどしか食べさせたことがないわね。ああ、そう言えば母さんから料理を教わった時いつか女の子ができたら料理を教えたいなって願ったわね。そんな簡単なこともできなかったのだから宇宙で実験成功させて帰ってくるなんてことができないのも当然ね。私があきらめてさえいれば料理を教えるという願いはかなっていた。選択肢はいつだって自分にあった。そして犠牲は常にクーニャ。もし子供が親を選べるのなら私は決して自分を親に選ばない。
 でもクーニャは何があっても私を親として選ぶ。親子として過ごすわずかな時間に私を理想に思うよう少しずつあの子に刷り込んでいったのだから。私は娘が憧れを抱くような立派な母親であり、そしてそのことからクーニャは宇宙飛行士を目指す。リンゴはリンゴの木の下に落ちる。他の動物や植物なら自然にそうなる。だけど人間は違う。ブドウになることを選ぶことだってことできる。けど約束などで緩やかにけど確実に縛りつけられたあの子はそれを選ばない。なんて残酷なことをしたのだろう。
 少し前まで実験のことなどあれだけいろいろ考えることがあったのに、もう今の私にはクーニャのことしか考えることがないのね。いつ死ぬのかわからないけどそれまで放っておいた娘のことで後悔するしかないなんてつらいな。いっそ狂ってしまえばこういうことを考えないですむのに……無理か。親らしいことをしないことで鍛え上げた肉体と精神だ。ちょっと暴行を受けたぐらいでは死なないし、こんな異常な状況でも狂ったりはしない。でもこれは幸福なのかもしれない。あまりにも真実とかけ離れたさっきの甘い夢。あんな自分だけに都合のよい偽りの世界に浸ることができるとしたら人は必ず堕落する。たとえ今のこの状況が私が最悪の結果を招くための選択肢をした結果だとしても仕方ない。これは私が選んだ結果。自分の運命を神に委ねずにした結果ならばこれ以上に良いものはない。
 クーニャ、今のあなたは私が選んだ結果に巻き込まれただけなのかもしれない。でもそれでも現実はこれ一つしかない。だからこの世界でちゃんと生きて。決して甘い偽りの世界になんて逃げ込まないで。そしていつか私の呪縛を断ち切って。あなたは何にだってなることができる。あなたがリンゴにならないことを心から祈っているわ……

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