「ねぇ恭介、この絵に描かれているのなんだと思う?」
「・・・・・・」
「恭介?どうしたの?」
「ああ・・・すまない理樹。あまりにも珍妙な絵だったからな」
そう、家具部の物置にあったこの絵に描かれてある人物は恭介ですら言葉を無くすほどの変な人物が描かれていた。
「ここの制服を着てるからうちの生徒だとは思うけど、なんでこんな仮面なんか付けてるんだろうね?」
その絵に描かれている人物はどこかの民族がなにかの儀式で使うような仮面を付けていてその表情を読み取ることは出来ない。しかし・・・
僕はこの人物を知っている気がした
仮面の男 斉藤
「ああ、それはアレだ。うちの学校にある七不思議の一つに出てくる絵だ」
「七不思議?」
家具部の物置を探索した次の日の朝、僕は来々屋さんに昨日見た絵のことを話した。来々屋さんなら何か知っているかもしれないと思ったからだ。
「なんだ少年、知らないのか?」
「うん、全然。っていうかうちの学校に七不思議があったことを今知ったよ」
「それでは内容ももちろん知らないんだな?」
「うん」
その後、来々屋さんはその七不思議の内容を教えてくれた。その内容は、夜にその絵の中の怪人が絵から出てきて学校に残っている生徒を襲う、というものだった。
「まあ、確かにあんな怪人に襲われたらトラウマになりそうだよ」
「ハハハ、まあこれは七不思議だからな。実際にこんなことが起きていたらそんな絵は処分されるだろう」
確かに来ヶ屋さんの言う通りだ。自分でもこんなことに神経質になっているとは思わなかった。
(笹瀬川さんのことがあったからかな)
結局今日はもうこの七不思議の話題には触れずいつも通りの一日を過ごした。
次の日の朝いつものように真人と一緒に食堂に向かうとなんだかいつもより騒がしいことに気づいた。
「なにかあったのかな?」
「全員の筋肉が暴徒と化したのか!?」
「いやいやいや、そんなこと絶対にないから」
と、いつも通りに真人にツッコミを入れていると人ごみの中に恭介の姿を見つけた。
「真人、席先に取ってて」
「おい理樹、どこ行くんだよ?」
真人の言葉をスルーし恭介の元へ。
「恭介、おはよう」
「おう、理樹おはよう」
「何かあったの?」
「ああ、昨夜校舎に残っていた生徒が何者かに襲われたらしい」
「え・・・」
その時僕は昨日来ヶ屋さんに聞いた話を思い出していた。まさかね・・・
「で、犯人は?」
「まだ捕まっていない。しかし被害にあったヤツが犯人の姿を見ていてな」
「まさかとは思うけど・・・その犯人、うちの制服を着ていて変な仮面を付けている、とか言わないよね」
「なんだ、もう知っていたのか?」
当たってしまった!まさか本当にあの絵の中の人物が絵から出てきて人を襲ったとでもいうのだろうか。いやいやいや、そんなこと起こるはずがない。きっと昨日の僕たちの話を聞いていた人がそれをマネて事件を起こしたんだ。でも・・・
「おい、理樹!」
「えっ!?何?どうかした?」
「それはコッチのセリフだ。もしかして何か知ってるのか?」
「い、いや。何も・・・」
「・・・。嘘だろ?」
「う・・・」
やっぱり恭介には隠しきれない。僕は昨日来ヶ屋さんから聞いた話を恭介にも話した。
「なるほど・・・」
恭介の顔が不敵に笑う。
やっぱり話すんじゃなかった・・・
「理樹!昼休みに全員部室へ来るように伝えろ!この事件の犯人、俺たちで捕まえるぞ!!」
やっぱりこうなってしまった・・・
昼休み、僕たちリトルバスターズは全員野球部の部室に集合していた。
「で、今回は一体なにをするるもりだ?」
鈴が恭介に聞く。
「まあそう急くな」
「まあ、何となく想像はつくがな」
「さすが来ヶ屋だな。そう、今回みんなに集まってもらったのは・・・・・・昨夜あった事件の犯人を我々で捕まえるためだ!!」
「なにいぃぃぃぃ!?・・・昨日なんかあったのか?」
全員すっ転ぶ。
「鈴、知らなかったの?」
「うん、なんだ?みんなは知っているのか」
僕は昨日あった事件を鈴に説明した。
「ほお、そんなことが・・・って!くちゃくちゃ大変なことじゃないか!!」
「そうなんだ、だから俺たちリトルバスターズが捕まえるんだ」
なにがどうなって僕たちが捕まえることになっているなだろう?
「よし、まずは家具部の物置に行って絵がどうなってるか見に行くぞ」
「まて!まだ行くとは言ってないだろ!」
鈴が文句を言う。
「鈴、一緒に来たらモンペチやるぞ」
「行く」
あっさり買収されていた!
「全員異論はないな?」
みんな黙って頷く。なにか言ってもどうせ敵わないと分かっているんだろう。
そしてみんな家具部の物置に来ていた。
「いいか、何が飛び出してくるか分からないからな。気を引き締めろよ!」
「そうですヨ、この地下には・・・」
「葉留佳さん、そのネタはもういいから」
「最後まで言わせてよ〜」
「まったく、お前らには緊張感ってものがないのか・・・」
恭介が呆れたように言う。
「じゃあ、行くぞ!」
恭介が扉を開けた。しかし、何かが飛び出してきたりということは無く全員拍子ぬけしてしまう。
「なにも、ないね」
「そうだな。とりあえず危険はないようだな」
「おい、絵ってこいつのことか?」
真人が例の絵を見つけたようだ。しかし、その絵は・・・
「どうなってやがる・・・」
さすがの恭介も驚いたようだ。
「この絵がそうなのか?しかし・・・何も描かれてないぞ」
そう、本来ここに描かれているはずの怪人の姿が無く描かれていた場所はその怪人の跡だけが残っていた。
「まさか・・・本当に抜け出したの?」
「ふふふ・・・面白い!」
さすが恭介、この事態をもう楽しもうとしている。
「全員今日の夜校門前に集合だ。もちろん・・・武器持参でな」
「待ちなさい!!」
その時背後がら声がし全員が振り返った。
「おねえちゃん!」
後ろにいたのは元風紀委員長の佳奈多さんだった。
「今回の事件は風紀委員で解決します。あなたたちは大人しくしていてください。」
「なんだ二木、もうお前は風紀委員じゃないだろ?そんなことを言われる筋合いはないと思うんだが」
その時佳奈多さんはしまった、と呟き、
「いつもの癖で言ってしまったわ・・・」
佳奈多さんはまだまだ現役だなぁ。
「しかし、今回の事件は私に協力の要請が来ているの。だから今回ばかりは私に権限があるわ」
恭介はまいったなという顔になる。
「おねえちゃん・・・」
そんな時葉留佳さんが佳奈多さんの前に出て言った。
「私、おねえちゃんの力になりたいの。今まで迷惑かけてばかりだったから・・・」
「うぅ・・・」
あの佳奈多さんが怯んだ!
「わかったわよ、今回ばかりは特別よ」
「アリガトーおねえちゃん!愛してますヨ!」
佳奈多さんの顔が真っ赤になる。
「では、このことは他の風紀委員にも伝えておきます」
そう言うと佳奈多さんはこの場から去って行った。ああ、佳奈多さん。今回は止めてほしかったよ・・・
「武器か、どうしようかな」
寮に戻り何を持っていこうかと僕は悩んでいた。
「どうした理樹、武器に悩んでるなら俺の筋肉を分けてやるぜ?」
「いや、筋肉は遠慮しとくよ」
自分の持ち物の中で武器になりそうな物を探してみるが何一つ武器になりそうな物は無い。その時部屋の扉がノックされた。
「恭介なら入ってきていいよ」
・・・入ってこない。するともう一回扉をノックされたので誰かと思い出てみる。
「はーい・・・って!沙耶!?」
「ハーイ理樹くん」
「どうしたのさ?」
「いや、理樹くんきっと武器が無くて困ってるんじゃないかと思って。だからこれを渡しに来たのよ」
そういうと沙耶は僕に銃を握らせた。
「聞いてたの?」
「私はスパイよ?このぐらい当然よ」
「そうだね。じゃあありがたく使わせてもらうよ」
「うん、じゃあ頑張ってね理樹くん」
そう言うと沙耶は去って行った。
「誰だったんだ理樹?って!なんだその手に持ってるのは!?」
「うーん、天使からの贈り物・・・かな?」
遠くで「げげごぼうぉえっ!!」という奇声が聞こえた気がした。
夜十一時、僕たちは僕の部屋に集まっていた。もう公式なんだからここでいいだろうと恭介が言ったからだ。
「さて、突入する前にこれを渡しておく」
そう言って恭介はトランシーバーを取り出した。
「これは二木からの連絡が届くようにとのことで渡された。もちろん俺たちで情報のやりとりもできるようになっている」
「でも三つしかないってことはチームを作るんだよね?」
「ああ、全員一緒に動いてたら逆に動きにくいだろ。だから三・三・四のチームを作る」
「決め方は?」
「とりあえず俺、謙吾、真人は別々のチームにする。それ以外は、これで決めてもらおう」
そう言って恭介が取り出したのはあみだくじだった。こんなので決めて大丈夫なのかな・・・。
十一時半僕たちは校舎に突入した。突入と言ってもいつもの所から入ったのだが。
それにしても夜の校舎というのはなぜこんなに怖いのだろう。あんな怪人がいるかもと考えるとその恐怖は増すばかりだった。そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。恭介が話しかけてきた。
「怖いか、理樹?」
「ちょっとだけね」
「安心しろ、何があっても理樹のことは守ってやるから」
「棗×直枝・・・眼福です」
「西園さん・・・変な想像しないで」
僕たちのチームは僕、恭介、西園さんの三人組みになった。なんだろう、この謀ったようなメンツは・・・
探索から十分が経とうとしている時、トランシーバーに通信が入った。
「こちら二木、二階を探索していた風紀委員が犯人と遭遇。戦闘になっています。直ちに救援に向かってください!」
「この下か!行くぞ理樹、西園!」
恭介が走り出すのを追いかけて僕たちも二階へ向かった。
「これは・・・」
二階へ行くと一人の男の前に四人の風紀委員が倒れていた。この学園の風紀委員はかなりの実力のはずなのに・・・
「うまうー」
男が何か言う。その姿は正にあの絵に描かれていた怪人の姿だった。
「どうするの恭介?」
「俺が説得する」
「えっ!?無理だよ恭介!あんななに言ってるかわからないようなやつに話が通じるわけないよ!!」
「大丈夫だ、俺に任せとけ」
そう言うと恭介は怪人に近づいて行った。
「うまうー」
「うまうー」
人外の会話が始まった。
一時間経った、もうリトルバスターズメンバーは全員この場に集まっていた。なぜか恭介はあの怪人と意気投合してるし・・・
「・・・せん・・・」
その時西園さんかゆらり、と立ち上がった。
「もう・・・我慢できません」
そう言うと西園さんはランチャーを構える
「ちょっと!西園さん!?」
「ぶっ放しますよ?」
そう言った瞬間ランチャーから光線が発射され怪人だけではなく恭介にも直撃。
「うまうー!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
誰もが呆然とする中西園さんが、
「井ノ原さん、宮沢さん・・・」
「「はいっ!!!」」
「早くあの絵を持ってきてください」
「「わ、わかりました!!!」」
廊下を駆けていく二人、確かに今の西園さんに逆らったら何をされるかわかったもんじゃない。
次の日の朝、僕たちは焼却炉の前に来ていた。あの後あの怪人は絵に押し込まれ事件は無事?解決したのだ。そしてこんな危険なものは放っておけないということで朝のうちに燃やしてしまおうということになったのだ。
「じゃあ入れちまうぞ」
「いいわよ」
絵が焼却炉の中に入れられる。その後佳奈多さんの手により火が点けられた。これでこの事件は幕を下ろしたのだ。
「さあ、早く教室に行きなさい。遅刻するわよ。」
「じゃあ行くか」
「そうだね」
みんなで教室に向かおうとしたとき焼却炉の中から「うまうー」って聞こえたような気がしたのは気のせいだよね。