ゴミ箱さんの変     浜村 ゆのつ



 うーん、今日もいい天気。私はぐいっと背伸びして、すうっと空気を吸い込みます。
 春の屋上桜の匂い、山の緑が元気になって、夏に向かってまっしぐら。真っ白雲を上に見て、のんびりお菓子を食べるのは、やっぱりとっても素敵です。
 静かな屋上のんびり幸せ、幸せものんびり、ここは私のプライスレス。

「……あれ? なんか違う?」
 ま、いっか。きっとあんまり違わないよね。
 気を取り直して鞄の中をごそごそと、出てきたのは桜餅。お菓子もしっかり春の色、甘い気持ちでとっても幸せいい気持ち。ぱくっと一口素敵な時間。



「でも一人で食べるのは寂しいよね」
 ふわっと春風吹いてきて、雲がのんびり流れてて、私はちょっと寂しいです。
 一人の幸せはちょっと寂しい、二人になるとちょっと嬉しい、三人になったらとっても素敵。お願い事一つ、誰かここに来ないかなぁ。
 ちょっと寂しい独り言、風さん誰かに届けて下さい。

「ほぇ?」
 その時扉がばたんと開いて、嬉しい友だち駈けてきます。これは素敵、とっても素敵。お願い事は叶うみたい。でもそんなに慌ててどうしたの?
 わふわふぱたぱた、クーちゃんはとっても大あわて。

「わふーっ!! 小毬さん、最近私のゴミ箱さんがおかしいのですっ!!」
「おおっ! ゴミ箱さんがお菓子なんて素敵だねー」
 でもそれって使いにくい、お菓子をゴミ箱にするのはちょっと困る。食べちゃうとなくなっちゃうし、使うと食べられなくなっちゃう。でも面白そうだよね。
「わふ?」
「うーん、それは大変だねぇ」
「はい、ゴミ箱さんが大変なのです。なのでちょっと小毬さんに来て欲しいのですよ」
「いいよー。それじゃあ早速クーちゃんの家にごーですよ」
 桜餅を鞄に帰して、クーちゃんのお家に出発です。

 友だちの大変は私の大変、困ったときにはお手伝い。それでみんなが幸せで、とっても素敵なスパイラル。








「そうですか、私が至らぬばかりにご迷惑をおかけ致しまして……」
「いえいえ〜困ったときは助け合い、それはとっても大切なこと。だから心配いりません、あなたを助けて私も幸せ、悩みがなくなってクーちゃんも幸せ、ほら、とっても素敵です」
 
 クーちゃんのお部屋でご挨拶。あらら、ゴミ箱さんはお菓子じゃなかったです、勘違い。
 アイス塗りっていう、美味しそうな名前だけどとっても渋いゴミ箱さん、クーちゃんの福島土産だそうなのです。
 だからゴミ箱さんがお菓子なんじゃなくて、ゴミ箱さんがおかしくなったみたい。それにしても、お話するゴミ箱さんって珍しいよね。



「実は最近お悩みだそうなのです」
 クーちゃんがそう言って頷きます。ゴミ箱さんもうんうんと続いて、私も頷いて三人仲良し。
「そっかぁ、大変なんだ」
 ゴミ箱さんの世界にも色々あるみたい。お友達のお友達はやっぱりお友達、それに、ゴミ箱さんがいないと、お部屋は散らかったままだから、頑張って悩みを解決してあげよう。
 そんな私にクーちゃんが、わふわふしながら言いました。

「なんと恋の悩みだそうなのです! 大人なのですっ!! 凄いのですっ!!」
「おおっ!」
 恋のお悩み、それはとっても大事な事。見ればゴミ箱さん、ちょっと赤くなってうつむいています。ほわーっ! 私も照れてきたっ!?

「わふーっ! 素敵なのですっ!!」
「わわわ照れちゃうよっ!?」
「そうです能美さん、あまり大声で言わないで下さいっ!!」

 どったんばったん大騒ぎ、ばたばたわふわふからからころろん、三人揃ってごっつんこ。

「わふー……」
「痛いです……」
「あうう……」
 お部屋の真ん中で三人揃ってごろごろぐるぐる。痛いのはちょっと嫌だよね……





「はい、ですからあの方は私の恩人。腕も手もない私ですが、せめてお側にいてお役に立てればと……」
 ごろごろ転がりしばらく経って、三人元気になったから、早速相談再開です。
 そして話し出すゴミ箱さん。それはとっても素敵な事、悩んで悩んで疲れた時、助けてくれた好きな人。
 そんな優しい素敵な人に、その時の気持ちを返したい、お部屋を綺麗に恩返し。
 例え自分が汚れても、例え自分に気付かれなくて、ちょっぴり寂しくなったとしても、それでも側にいたいのです。
 例えどんな立場でも、好きな人の側にいたい、とっても素敵な事なのです。
 
「わふーっ!? 凄いのです、恩返しなのです、ご恩と奉公なのですっ! いざ鎌倉なのですっ!!」
「だいじょーぶっ! 腕も手もなくても、心があるなら大丈夫っ!!」
「そうでしょうか……でも、今の私はしがない一ゴミ箱の身、あの方が覚えていて下さるか……」
「それは絶対大丈夫、私がちゃんと保証しますっ!」
「はいです! 私も保証するのですっ!!」
 そんなこんなで大騒ぎ。三人がやがや大騒ぎ。

 そう、その人は私も知ってる人、忘れることなんて絶対ない。だからだいじょうぶゴミ箱さん、きっとその人あなたのことを、大切にしてくれるはずなのです。

「もしも忘れていたら、私とクーちゃんがどぎゃーんでどかーんっですよ!」
「爆発させるのですねっ!」
「させちゃうよっ!!」
「それはやめて下さいっ」
「じゃあ私が爆発しちゃうのですかっ!?」
「爆発しちゃうねぇ」
「爆発にこだわらないでくださいっ!!」

 

 ある春の日昼下がり、私とクーちゃんとゴミ箱さん。三人並んで歩きます。向かうはお隣男子寮。
 とっても優しいゴミ箱さん。あなたの恋、叶うといいね。
 
 

 











 その後、ゴミ箱を古式だと言って抱きしめる謙吾の姿が見受けられたり、クドリャフカが変になったと佳奈多が大パニックになったりとかいう出来事があったとかなかったとか。



『おしまい』

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